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“疑似科学”が世界を変える? 天才科学者が死後になって評価される理由

2020年11月02日 公開

石川幹人(明治大学教授)

 

超心理学は「心霊現象」ではない

さて超心理学だが、これがふたたび疑似科学に退行する恐れもある。超心理学は心霊研究を脱却したはずだが、超心理学者の一部はいまだに心霊研究に思いを寄せており、ESP発揮の説明に霊魂モデルを使う傾向が残っている。

たとえば、千里眼は「魂が抜け出して遠くのできごとを見て戻ってきた現象」などと説明されることがある。ところが、こうした説明には数々の難点がある。

人間の目による見え方というのは、生理学的によくわかっているのだが、魂が「見る」とはどういうことかが説明できていない。いったいどのように魂は封筒の中身を「見て」帰ってくるのだろうか。

霊魂モデルでは、魂が身体から抜け出すといろいろなことができるとし、ESPなどもその一端と説明する。そのためESPの存在が、霊魂が存在することの証明のように解釈されもするが、それでは問題を簡略化しすぎている。

反対に、超心理学がつきとめた現象で、霊魂モデルを使わないと説明できない現象はほとんどないのだ。たとえば、「こっくりさん」という霊魂との通信方法がよく知られている。

文字を並べた紙の上に5円玉をおき、その5円玉に3人の人差指をのせて祈ると、霊魂が下りてきて5円玉を動かし、文字の上を次々に動き「霊魂の言葉」がつむぎ出されるとされる。

さらにこっくりさんでは、霊魂との会話で、誰も知らない事実が得られることまでもあるという。しかしかりに、その事実が正しいことが後で確認されても、それは霊魂の存在をつきとめたことにならないのだ。

超心理学側からしてみると、こっくりさんで5円玉が動くのは、参加者が無意識に手を動かしているからであり、つむぎ出された事実も、参加者の透視能力ではないかと、推定できるからだ。

霊魂が存在するならば、霊魂を裏づける特有の観測データがたくさんあるべきなのだが、それはない。霊魂モデルを導入しても、超心理学に理論が欠けている問題は改善されない。

そればかりか、自然科学との不整合性は輪をかけて大きくなってしまい、グレーゾーンどころか、かえって疑似科学の域に転落してしまう。霊魂モデルの誘惑にかられる超心理学者は、ラインの時代に心霊研究から超心理学に転回した理由を、もう一度思い起こす必要がある。

もし、超心理学に霊魂モデルを導入した主張がされるならば、あっという間に疑似科学だと見なされるだろう。

 

数学を使う科学は「やさしい科学」

では、超心理学の奇妙なデータは何を意味するのだろうか。私は、心理学に未解明の領域がまだ多く残っていることの証だ、と思う。物を対象にした自然科学は、この数百年で多大の進歩をとげた。

これは物にまつわる現象が、比較的単純で解明しやすかったためである。物は、人の見方によって変わることがなく、客観的である。また、同一の物がたくさんあるので繰り返し実験に向き、実験の再現性も高い。

それに、物の実験は、ここで行ってもあそこで行っても、大きな違いはない。実験室に隔離したからといって、物の性質が変化したりもしない。それに対して人間は、同じ人で調査や実験を繰り返しても、時と場合によって結果が違ってくる。

何とか結果を出しても、ほかの人にその結果を適用しにくい。人間は一人ひとり個性があるからだ。それに実験室に隔離すると緊張したり不平を感じたりと、前提となる条件が変わってしまう。

つまり物の研究は、比較的簡単で成果も出やすい「やさしい科学」なのだ。だからこそ、数百年という短い期間で大きな進歩をとげることができた。一般的に、自然科学を「数学を使う難しい科学だ」と見なす向きがあるが、実態は「数学が適用できるくらい簡単な現象を対象とする科学」なのだ。

人間や社会は、あまりにも複雑で究明が難しい。最近、経済や金融など、複雑な社会現象を数学でモデル化する研究が進んできたが、自然科学よりずっと複雑な数学を使っているのが実情だ。

ジョン・ナッシュを含め、ノーベル経済学賞を受賞する研究者の多くが数学者なのもそのためだろう。人間についての科学的究明は、遺伝情報や脳科学の助けを借りて、かなりの進展を見せてきた。

しかし、究明はまだまだこれからである。難しい科学の研究に時間がかかるのは当然のことであり、この百年間で心理学が究明してきた事柄は、人間の実態のごくわずかな面でしかないことも、今後ますます明らかになるだろう。

現時点で、超心理学の成果が説明のつかないまま残る未科学であっても、何ら不思議なことではないのである。

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