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生き方

泣いた我が子より自分の方を見て...パートナーの「無自覚な独占欲」の正体

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2022年05月13日 公開 2023年07月26日 更新

泣いた我が子より自分の方を見て...パートナーの「無自覚な独占欲」の正体

パートナーに独占欲を抱く人がいる。独占欲は、本人だけでなく、周囲の人々をも疲弊させてしまうマイナスの感情だ。この激しい感情が生まれる背景には「幼少期の母との関係」があると、早稲田大学名誉教授である加藤諦三氏は明かす。無意識的に独占欲をあらわにしてしまう人が振り返るべき「過去の体験」について紹介する。

※本稿は、加藤諦三 著『[新版]自立と孤独の心理学 不安の正体がわかれば心はラクになる』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集してお届けする。

 

過去の自分への理解が、今の自分の気持ちを救う

ラジオのテレフォン人生相談に次のような悩みを訴えてきた奥さんがいる。夫の独占欲の強さに悩んでいるのである。夫は奥さんが夫以外の他人のことをほんの少しでも世話しようとすると不機嫌になったり、怒ったりする。また実際に力ずくでさせない。

赤ん坊が夜中、隣の部屋で泣く。奥さんが隣の部屋に行こうとすると袖をひっぱって行かせない。これほどひどい人も少ないであろうが、自分の独占欲、所有欲を意識していない夫は多い。

この激しい所有欲も、幼い日の重大な愛情喪失体験の裏返しなのであろう。なんとかそれをとり返そうとしているのである。なんとかその喪失をとり返そうと焦っているのである。しかし、その心の空白は基本的には所有によって埋まるものではない。

富と名誉と数多くの女を所有しつつ、不安にさいなまれている男もいる。自分の所有欲のさらに深いところに重大な愛情喪失体験があることに気がつかないでいる人は、生涯焦りつづけるであろうし、本当に親密な人ができないであろう。やたらに人にいい顔をすることはあっても、近い人と幸せな生活ができない。

自分が自分の感情をもてあましている時、その最も奥深いところに幼い日の重大な愛情喪失体験があるのではないかと反省してみることである。愛情喪失体験者は、その心の空白を埋めようと焦るし、またその心の空白を埋められないでいるからこそ、自分で自分をどうしようもなくなっているのである。

うっ屈してしまっている自分の感情にはおそらくそれなりの理由がきちんとあるはずである。何の理由もなくうっ屈したり、焦ったり不安だったり恐れたりということはない。

憂うつになるにはそれなりの理由があるし、不機嫌になるにはやはりそれなりの理由がある。

ただそれが本人には理解できないだけの話である。理解できれば気持ちもいくらかは落ち着く。それを正しく理解しないで、正義とか富とかで逃げようとするから生涯救われないのである。

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強い執着心を生み出すのは「幼少期の喪失体験」

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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